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共有(共同)名義・共有持分とは
共有名義とは、一つの不動産を親族や夫婦などの複数人で所有している状態を指します。
その際、それぞれの所有権割合を「共有持分」といいます。
例えば、兄弟3人で1つの土地を共同で所有している場合、その土地は共有名義になります。 共有している土地300㎡を均等の割合で所有している場合、兄弟3人の共有持分はそれぞれ1/3となります。
また土地300㎡のうち1/3の持分を所有しているからと言って100㎡を自由に使用できるというわけではありません。あくまで権利上のものであって、物理的なものではありませんので注意が必要です。
なお、持分割合を知りたい場合は、登記簿謄本(登記事項証明書)に表示されていますので、所定の手数料を支払えば誰でも法務局や一般財団法人民亊法務協会のホームページより確認することができます。
共有名義・共有持分が発生するきっかけは?
1つの不動産について共有名義が発生する主なきっかけは、 以下の2つです。
- 複数人で不動産を相続した場合
- 夫婦で資金を出し合い不動産を共同購入した場合
複数人で不動産を相続した場合
不動産が共有状態となるきっかけの多くが相続です。
例えば、親が亡くなり実家を兄弟3人で相続した場合をイメージしてみましょう。
兄弟3人でどのように遺産を分割するか協議する際、不動産の分割は非常に厄介です。現金であれば、きれいに分割できますが、不動産の場合、平等な分割が難しいとされています。
話し合いの結果、誰が相続すべきか決めきれずに「揉めるのも嫌だから、とりあえず共同名義にしておこう」と、共有名義で不動産を相続するケースがこれに当てはまります。
全員平等に相続できるため平和的解決のように思えますが、不動産を共有することは後々トラブルのもとになるため、おすすめはできません。
詳しくは、後の章「共有名義のデメリット」で解説しています。
夫婦で資金を出し合い不動産を共同購入した場合
不動産を購入する際に複数人が共同で出資した場合、その出資割合に応じた持分で登記すれば、その不動産は共有名義になります。
持分割合は原則として、自由に決められるのではなく、各名義人が不動産購入の際に住宅ローンを含めて支払った金額に応じて決まります。
例えば、4,000万円のマンションを夫2,000万円・妻2,000万円で、お金を出し合って購入した場合、それぞれ1/2の持分の共有名義になります。
夫婦に限らず、兄弟や親子、第三者と共同購入した場合も、同じことが言えます。
共有名義のメリット
不動産を共有名義にするメリットは以下の通りです。
- 購入できる住宅の選択肢や融資額が広がる・住宅ローン(ペアローン)審査に通りやすくなる
- 住宅ローン控除(減税)が共有者ごとに適用される
購入できる住宅の選択肢や融資額が広がる・住宅ローン(ペアローン)審査に通りやすくなる
2人以上の共有名義で住宅を購入するメリットは、それぞれ資金を出すことで、1人で購入するより住宅の選択肢が広がることにあります。
住宅ローンを利用する場合においても、ペアローンや収入合算(連帯債務型・連帯保証型)を利用することで、住宅ローン審査に通りやすくなり、1人では手の届かなかった物件でも購入しやすくなります。
住宅ローン控除(減税)が共有者ごとに適用される
建物を夫婦2人の共有とすることで、夫婦ともに住宅ローン控除が受けられますし、売却時には特別控除を二重に受けられます。
ただし、共有持分を出資額にあわせて設定しないと、差額分が贈与になってしまいますので注意が必要です。
※住宅ローン控除は文字通り居住する住宅のための控除制度ですから、土地のみの場合は利用することはできません。
共有名義のデメリット
共有名義には、下記のようなデメリットがあるため注意が必要です。
- 不動産の活用を巡って共有者間でトラブルになる
- 税金や維持費の負担割合で揉める
- 共有持分が相続されると権利関係が複雑化する
不動産の活用を巡って共有者間でトラブルになる
共有名義の不動産は、複数人が所有権を持っているため、一人の意思で自由に不動産の活用方法を決めることはできません。
例えば、共有名義の不動産全体を売却する場合、共有者全員の承諾が必要になります。自己の持分の割合が9割であっても不動産全体を勝手に売却する事はできません。
不動産を共同所有では、「売却したい」「家賃収入を得たい」「自分が住みたい」など、共有者それぞれに意思があります。
そのため、自分の思い通りになるように、共有者全員の意思を統一し、不動産を活用していくことはほぼ不可能に近いのです。
不動産を共有名義で相続したことが原因で、相続人同士がトラブルになることも珍しくありません。
税金や維持費の負担割合で揉める
共有名義不動産を所有していると、固定資産税や修繕費用などの維持費といった支出が常にかかります。
この支出は原則、持分割合に応じて負担することが民法で定められています。
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。(民法第253条) |
しかし、固定資産税の支払い通知書は、共有者のうち代表者一人に届くのが一般的です。
その場合、一旦代表者が立て替えて支払うことになります。後で他の共有者に請求しても、応じて貰えないケースも珍しくありません。
共有名義の不動産を持ち続ける中で発生する税金や維持費も、共有者間で揉める原因になりやすく注意が必要です。
共有持分が相続されると権利関係が複雑化する
共有者が亡くなった場合、共有名義で所有していた不動産も当然相続の対象になります。
このように二次相続により共有者が芋づる式に増えていき複雑化し、共有者が増える事により管理や交渉だけでも難しくなっていきます。
ここまで解説してきたとおり、不動産を共有名義にする事のメリットは税制上の恩恵しかなく、デメリットで書かれているように共有名義は権利関係が複雑化しやすく、トラブルに発展した場合は裁判になるケースも珍しくありません。
解決に時間や費用がかかる恐れもあるので、不動産を共有名義にする際は将来的なリスクをよく理解しておくことが大切です。
共有名義不動産の所有者が単独で、できる事とできない事
不動産を共有している状態では、全員の同意がなければできない事、過半数の同意、または単独でできる行為など様々な制限があります。
共有名義不動産の全体売却や解体、処分など、重要な事柄ほど共有者全員の承諾が必要です。以下で共有者が全員でできる事と、できない事について解説いたします。
「変更(軽微な変更以外)・処分」にあたる行為は共有者全員の同意が必要
共有名義不動産の全体売却や処分、お金を借りるために抵当権を設定する、もしくは不動産の改築をおこなうなどを法律上では「変更行為」といいます。
共有名義不動産の場合、これらの変更行為をおこなうには、共有者全員の同意が必要となります。
例)建物の売却、増改築
「管理・利用」にあたる行為は共有者過半数の同意が必要
短期間の不動産の賃貸借契約や、物件価値を上げるためにリフォームなどをおこなったりする事を「管理行為・変更行為(軽微な変更)」といいます。
共有持分である不動産の管理・軽微な変更行為をおこなうためには、共有者の過半数の方が同意する必要があります。ここでいう過半数とは人数ではなく持分の過半数となります。
例えばAさんが4/6の持分、BさんCさんが各1/6持分を所有している場合、Aさんは、BさんCさんの同意なく管理・利用行為がおこなえます。
例)不動産を短期間貸す行為、小規模なリフォーム
「保存・使用」にあたる行為は共有者の同意は必要ない
他の共有者の同意なく、単独でおこなえることを法律上で「保存行為」といいます。
保存行為とは、築年数が古い不動産の修繕など建物を維持したりすることです。
例えば、雨漏りやトイレが故障し修繕する行為は、他の共有者の同意なく単独で行えます。修繕は、共有者全員にとって利益になる行為なので、保存行為に関しては共有者の同意は不要なのです。
しかし、保存行為と管理行為の境界には、曖昧な点があり、他の共有者のためを思っておこなった修繕行為を、他の共有者が大幅な改築行為とみなせば、原状回復請求や損害賠償請求される可能性があります。
また、使用とは、不動産に自ら居住するなど、不動産を使用することができる事をいいます。共有持分の割合に関わらず、全体の使用をすることも可能です。
例えば共有持分1/3を所有している者がその建物に住んだり、事務所として使用しても問題はありません。ただし、他の共有者から持分の割合に応じた家賃を要求される場合もあります。
また、共有名義不動産の全体売却の際は、全員の同意が必要ですが、自己の持分のみの売却は他の共有者の同意なしで可能です。
例)定期清掃、草むしり
共有名義の解消方法
相続などですでに共有名義になってしまった不動産を解消したい場合は、以下のような方法があります。
- 共有名義不動産を分筆し単独名義とする(現物分割)
- 他の共有者の持分を対価を払って購入する(代償分割)
- 全体を売却し利益を分配する(換価分割)
- 自己の持分を放棄する
- 自己の持分のみを売却する
それでは詳しく解説いたします。
共有名義不動産を分筆しそれぞれの単独名義とする(現物分割)
分筆とは、1つの土地を2つ以上の土地に分けて登記する手続きの事です。土地の分筆は共有者全員の同意が必要になりますが、持分割合に準じて分筆し土地を単独名義にすれば、自分の思いどおりに管理や活用ができるようになります。
土地の分筆は、土地の上に建物があっても原則可能です。
しかし、マンションのような区分所有建物はそもそも物理的に分ける事ができませんし、土地の陽当りや道路に面している場所等、均衡な共有分割はそう簡単にはいかない事が多いので、この現物分割は実際にはあまりおこなわれていないのが現状です。
他の共有者の持分を対価を払って購入する(代償分割)
共有物を誰か1人の共有持分権者が買取り、他の共有者へ代償金を支払う方法です。
例えば3000万円の価値がある不動産をA・B・Cさんの3人が各1/3ずつ所有している時、Aさんが不動産を取得してB・Cさんたちに1000万円ずつ代償金を支払うと代償分割になります。
全体を売却し利益を分配する(換価分割)
共有物を売却し、売却金を共有持分に応じて分配する方法です。
例えば、3000万円の価値のある不動産をA・B・Cさんの3人が各1/3ずつ所有している時、土地を売却して3人が1000万円ずつ取得すると、換価分割になります。
自己の持分を放棄する
放棄する場合、持分は他の共有者に帰属されます。
例えば、A・B・Cさんが各1/3の持分を所有していて、Aさんが自己の1/3の持分を放棄した場合、B・Cさんに帰属され二人の持分は各1/2になります。
自己の持分のみを売却する
共有名義は所有権であるため、他共有者の同意を得なくても自己持分のみの売却が可能です。売却先は共有者でも第三者でも可能で制限はありません。ただ、自由に不動産を活用できない持分の買取価格は実勢価格よりも低いものとなってしまうケースがほとんどです。
共有名義の解消方法は、不動産の広さや現在の利用方法によって様々です。
共有者の一人が分割や持分の解消に応じない場合、裁判所を通じて行う「共有物分割請求訴訟」によって共有名義を解消する方法もあります。 いずれにしても共有者間で納得のいく方法を話し合う事がなによりも大切です。
共有名義のまとめ
ここまで解説したとおり共有名義不動産は節税の恩恵しかなく、それ以上に制限の多い共有名義にする事で様々なトラブルが起こりえると考えられます。
また、2024年4月1日から相続登記の義務化が始まりました。
相続の発生を知った日から3年以内に相続登記をしないと10万円以下の過料の対象になります。義務化の背景には少子高齢化や所有者不明の土地問題が大きくクローズアップされていることが挙げられます。
そのため安易に、法定相続分をそのまま共有名義にしてしまうと、将来的に不動産の売却や使用についてトラブルに発展する可能性が高くなります。 これらの点をきちんと理解した上で、相続が発生したら遺産分割協議を先送りしないで、共有名義不動産にするかよく検討するようにしましょう。
大手町フィナンシャルは、共有名義の不動産に精通した不動産担保ローンの専門会社です。共有名義の不動産の活用でお困りの方や共有持分の権利を活かした融資をご検討の方は、ぜひご相談ください。