親からの遺産相続や結婚後の住宅購入をきっかけに、兄弟や配偶者との共有名義で不動産を所有する場合があります。
この状態は「共有不動産(共有名義不動産)」とよばれ、人間関係のトラブルにつながりやすいと言われています。
本記事では、共有不動産のよくあるトラブルと解決方法をわかりやすく解説します。
目次
共有不動産とは?
共有不動産(共有名義不動産)とは、複数人で所有する不動産のことです。
共有不動産は、以下のようなケースで生じることが一般的です。
- 不動産の所有者が亡くなり、複数の相続人で相続した
- 夫婦で資金を出し合い住宅を購入した
- 親子の共有名義で二世帯住宅を購入した
なお、共有不動産の各共有者が持つ所有権の割合のことを「共有持分」と言います。
共有不動産のメリット
共有不動産には、以下のようなメリットがあります。
- 単独名義よりもローンの借入額を増やせるため、高額な住宅を購入できる可能性が高まる
- 住宅ローン控除を共有者の人数に応じて適用できる
- 「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を共有者の人数分適用できるため、マイホームを売却する際の控除額が多くなる
- 各共有者の持分のみが相続税の課税対象になるため、相続税が節税できる
しかし、これらのメリットは一時的なものが多く、今後ライフプランや共有者同士の関係性が変化する可能性などを踏まえて長期的に考えると、メリットとは言い切れない部分もあります。
共有不動産のデメリット
共有不動産は、一般的にメリットよりもデメリットのほうが大きいと言われています。
共有不動産の代表的なデメリットには、以下のようなものがあります。
- 不動産の活用や処分には、他の共有者の同意が必要
- 共有者が多い場合は、意思統一が難しく不動産を自由に活用できない
- 共有者である以上、住んでいない場合も修繕費用や固定資産税の負担義務がある
- 占有している共有者を追い出すことが難しい
- 離婚時の財産分与で揉める原因になる
- 相続時に権利関係が複雑化し、子供や孫までもがトラブルに巻き込まれる
このように共有不動産には、共有者同士のトラブルに繋がりやすいデメリットが多くあります。
また、これらのデメリットは共有不動産を所有し続ける限り一生ついて回り、自分の代だけではなく、子供や孫の世代にまで問題を持ち越してしまう可能性もあります。
そのため、不動産を共有名義にする際は慎重になる必要があります。
共有不動産のよくあるトラブル
ここからは、共有不動産のよくあるトラブルをご紹介します。
共有不動産の代表的なトラブルは以下の通りです。
- 共有不動産の活用・処分を巡り、共有者同士の意見が対立する
- 費用の負担割合について、共有者間で揉める
- 他の共有者が勝手に自己持分を売却する
- 他の共有者に共有不動産を独占される
- 他の共有者と連絡がつかない
共有不動産の活用・処分を巡り、共有者同士の意見が対立する
共有不動産の場合、各共有者が独断で活用方法を決めることはできません。
共有不動産の売却や増築・改築、賃貸借契約、抵当権の設定などを行う際は、他の共有者の同意が必要となります。
共有不動産の活用方法 | 共有者の同意の必要性 |
---|---|
売却 | 全員の合意が必要 |
賃貸借契約 | 過半数の同意が必要 ※長期賃貸の場合、全員の合意が必要 |
抵当権の設定 | 全員の合意が必要 |
建物の改築・増築 | 過半数の同意が必要 |
共有不動産の活用方法に関しては、共有者同士で意見が対立する場合も多く、話がまとまらないまま不動産が放置されたり、共有者同士の紛争などのトラブルに発展することもあります。
費用の負担割合について、共有者間で揉める
共有不動産を維持管理するためには、固定資産税などを支払う必要があります。
マンションなどの賃貸借契約をしている場合は、管理費なども発生します。
共有不動産の維持管理に必要な費用の項目 | 内訳 |
---|---|
固定資産税・都市計画税 | 土地や建物の評価額に基づいて課される税金 |
管理費 | マンションなどでは、共用部分の清掃、設備の維持管理などにかかる費用 |
修繕積立金 | 建物の老朽化に伴う修繕費用に備えて積み立てられる資金 |
保険料 | 火災保険、地震保険など、不動産を守るための保険料 |
修繕費用 | 屋根の葺き替え、外壁の塗装など、建物の大規模な修繕費用 |
維持管理費用 | 庭の剪定、排水溝の清掃など、不動産を良好な状態に保つための費用 |
空室対策費用 | 賃貸不動産の場合、入居者を募集するための広告費、仲介手数料など |
その他 | 登記費用、弁護士費用など、不動産取引に伴う費用 |
これらの維持管理費用は、原則として共有者全員が各持分の割合に応じて支払うように定められています。実際には、1人の代表者がまとめて支払った後に共有者間で清算することが一般的です。
しかし、清算に応じない共有者がいると揉める原因になります。
また、共有者間で費用負担の割合や支払う金額に対する見解が異なる場合も、それぞれの主張がぶつかり合い、トラブルになる可能性が高いと言えます。
他の共有者が勝手に共有持分を売却する
特定の共有者が、他の共有者へ連絡をすることなく、第三者に自分の共有持分を売却してしまうことがあります。
前述の通り、共有不動産全体を売却するためには共有者全員の合意が必要ですが、各自が所有する自己持分のみに関しては、他の共有者の同意なく、単独の意思決定によって自由に売却できるためです。
しかし、一部持分の売却について何も知らされていなかった他の共有者からの心象が悪化し、人間関係に問題が生じる恐れがあります。
また、場合によっては、新たな共有者として名義に加わった第三者と以下のようなトラブルになるリスクがあります。
- 賃料を請求される
- 他の共有者に強引な取引を迫られる
- 共有不動産の敷地内に無断で立ち入られる
- 共有物分割請求訴訟を一方的に申立てられる
他の共有者に共有不動産を独占される
共有不動産を特定の共有者が独占して使用するためには、他の共有者に対して、それぞれの共有持分に応じた賃料相当額を支払う必要があります。
しかし、特定の共有者が賃料相当額を支払うことなく共有不動産を独占してしまうケースは少なくありません。
この場合、他の共有者は共有不動産を使用できない上に、自身が所有する権利に対する恩恵を受けられないため、不満に感じ、共有者間のトラブルに発展する可能性があります。
他の共有者と連絡がつかない
共有者の人数が多い場合、共有者の所在不明により連絡先がわからなかったり、音信不通の共有者が存在する場合があります。
他の共有者と音信不通の場合、不動産の活用や処分に関する意思確認ができず、共有者全員の合意が必要な共有不動産全体の売却が行えなかったり、維持管理費を立て替えている特定の共有者の負担が増えたりと、さまざまなトラブルが発生します。
また、音信不通の共有者がもし亡くなっていた場合、相続が発生し、権利関係がより複雑になっているケースも考えられます。
このようなケースは、共有者間で解決するには難しいフェーズに入っているため、共有不動産の取り扱いに詳しい不動産会社に相談するのが賢明です。
共有不動産のトラブルを解決する方法
続いては、共有不動産のトラブル解消方法をご紹介します。
共有不動産のトラブルを解消するための一般的な方法は以下の通りです。
- 土地を分筆して単独名義に変更する(現物分割)
- 共有者全員の合意のもと、共有不動産全体を売却する(換価分割)
- 共有持分を共有者間で売買する(代償分割)
- 自分の共有持分のみを第三者に売却する
- 自分の共有持分を放棄をする
- 共有物分割請求訴訟を行い、判決に従って共有不動産を分割する
現物分割:土地を分筆して単独名義に変更する
共有不動産が土地の場合は、「現物分割」で物理的に土地を切り分けることで各共有者が単独所有する複数の土地となり、共有状態を解消できます。
しかし、現物分割を行った結果、分割後の土地が狭くなったり、建物を建てにくくなったりと土地の利用価値が低下する恐れがあります。
また、土地の価値は形状や方角などによっても異なるため、土地の切り分け方や、共有者のうち誰が土地のどの部分を所有するかなどで、新たなトラブルにつながる可能性がある点にも留意しておくべきです。
代償分割:共有持分を共有者間で売買する
特定の共有者が他の共有者の持分をすべて買い取ることで不動産を単独所有し、共有状態を解消する方法です。
この方法は「代償分割(全面的価格賠償)」と呼ばれ、不動産を単独で所有したい共有者と、持分を売却して現金化したい他の共有者の利害が一致するケースで特に有効です。
ただし、不動産を単独所有したい共有者には、他の共有者の持分をすべて買い取るだけの支払い能力が必要な点や、代償金の価格がトラブルの原因になる可能性がある点には注意が必要です。
換価分割:売却代金を持分割合で分配する
共有者全員の合意のもと共有不動産全体を売却し、各共有者の持分割合に応じて売却代金を分配する方法です。
この方法は「換価分割」と呼ばれ、
- 各共有者の持分割合に応じて売却金を分配するため、不公平感が少ない
- 相場通りの価格で売りに出せるため、希望に近い価格での売却を期待できる
などの理由から、不動産の共有状態を円満に解消できる可能性があります。
自分の共有持分のみを第三者に売却する
共有不動産を売却するためには共有者全員の合意が必要ですが、自分の持分だけであれば、第三者にも自由に売却することが可能です。
自分の共有持分だけを売却する際は、他の共有者からの同意が不要であることに加えて、他の共有者に連絡する必要もありません。
ただし、他の共有者への相談や連絡なしに独断で第三者に共有持分を売却すると、他の共有者は見ず知らずの第三者と不動産を共有することになるため、人間関係上のトラブルに発展する可能性があります。
自分の共有持分を放棄をする
自分の持分だけを手放すことで、トラブルが生じている共有不動産から離脱できます。
放棄した共有持分は、持分割合に応じて他の共有者に帰属します。
ただし、共有持分の放棄には、以下のようなデメリットが存在します。
- 共有持分を無償で手放すことになるため、金銭的な対価が得られない
- 共有持分を放棄した後も、その年の固定資産税を支払う必要がある
- 放棄された共有持分を取得した他の共有者は、贈与税を負担する場合がある
- 他の共有者からの協力を得られない場合は、「登記引取請求訴訟」の提起に進むが、費用や時間がかかる
共有物分割請求訴訟を行い、判決に従って共有不動産を分割する
不動産の共有状態を強制的に解消したい場合は、法的な拘束力のある「共有物分割請求訴訟」の提起も検討する必要があるかもしれません。
共有物分割請求訴訟の判決は、先にご紹介した「現物分割」「代償分割」「換価分割」のうちのいずれかです。
- 現物分割・・・土地を物理的に分割し、各共有者が一部分を単独所有することで共有状態を解消する
- 代償分割(全面的価格賠償)・・・特定の共有者が他の共有者の持分をすべて買い取ることで不動産を単独所有し、共有状態を解消する
- 換価分割(競売)・・・共有名義不動産を売却し、売却代金を各共有者の持分割合に応じて分配することで共有状態を解消する
また、これらの判決に加えて、裁判所から「和解」が勧告されるケースもあります。
和解の場合は、原告と被告がお互いに譲歩し合いながら、双方にとって納得のいく解決方法を探ることができます。
他の共有者と連絡がつかない場合の解決方法
上記で解説してきた内容は、前提として共有者と連絡が取れる、意思確認ができる場合のトラブル解決方法です。
ここでは、共有不動産に関連するトラブルの中でも、他の共有者と連絡が取れない場合の解決方法をご紹介します。
他の共有者が所在不明で連絡が取れない場合のトラブル解消方法は、以下の通りです。
- 「不在者財産管理人」を選任する
- 「失踪宣告」を申し立てる
- 「所在等不明共有者持分取得制度」または「所在等不明共有者持分譲渡権限付与制度」を利用する
「不在者財産管理人」を選任する
行方不明の共有者の代わりに財産を管理する「不在者財産管理人」を立てて、共有者の代理を務めてもらう方法です。
不在者財産管理人は、
- 共有者と長期間連絡が取れない
- 住民票に記載されている住所に手紙を出しても宛所不明で返送される
などの状況に陥った際に、家庭裁判所への申し立てを行うことで選任されます。
なお、不在者財産管理人は、裁判所から不動産売却の許可を取ることで、財産の管理だけでなく共有不動産や共有持分の売却も可能になります。
「失踪宣告」を申し立てる
生死が不明な共有者を死亡したとみなす「失踪宣告」を家庭裁判所に申し立て、行方不明者の共有持分を相続人に引き継いだり、共有不動産を売却したりといった手続きを、本人不在で行う方法です。
失踪宣告には、以下の2種類があります。
- 普通宣告・・・行方不明者の生死が7年間不明の場合に、法律上死亡したとみなされる
- 特別失踪(危難失踪)・・・行方不明者が事故や災害などの危険な状況に巻き込まれ、生死が1年間不明の場合に、法律上死亡したとみなされる
「所在等不明共有者持分取得制度」または「所在等不明共有者持分譲渡権限付与制度」を利用する
従来、他の共有者が行方不明の場合に共有不動産のトラブルを解決する方法は、先述の「不在者財産管理人」または「失踪宣告」でした。
しかし、これら2つはどちらも利用するハードルが高く、また、所有者不明の不動産や空家の増加が社会問題化している背景もあり、令和5年4月1日から新たに「所在等不明共有者持分取得制度」と「所在等不明共有者持分譲渡制度」が施行されました。
「所在等不明共有者持分取得制度」と「所在等不明共有者持分譲渡制度」は従来からある制度に比べて手続きが簡略化されており、特定の共有者が行方不明または氏名等が不明の場合であっても、迅速かつスムーズに共有状態を解消できる可能性があります。
以下は、「所在等不明共有者持分取得制度」と「所在等不明共有者持分譲渡制度」それぞれの簡単な解説です(民法262条の2)。
所在等不明共有者持分取得制度とは
所在等不明共有者持分取得制度とは、共有不動産の特定の共有者が行方不明または氏名等が不明の場合に、裁判所の手続きを通じて、他の共有者が不明である共有者の共有持分を買い取りできる制度です(民法262条の2)。
行方不明または氏名等が不明の共有者の共有持分の額は、時価、不動産鑑定士の評価書、固定評価証明書などをもとに裁判所が定め、他の共有者は定められた額の供託金を裁判所に支払う必要があります。
所在等不明共有者持分譲渡権限付与制度とは
所在等不明共有者持分譲渡制度とは、共有不動産の特定の共有者が行方不明または氏名等が不明の場合に、行方不明の共有者以外の共有者全員がそれぞれの共有持分を第三者へ譲渡するならば、行方不明の共有者の共有持分も第三者に譲渡できるようにする権限を、今いる共有者に与えるという制度です。
相談無料!共有不動産や共有持分でお困りの方は大手町フィナンシャルにご相談ください
共有不動産や共有持分に関連するトラブルは、各共有者が置かれている状況や価値観の違いにより複雑化しやすく、当事者同士での解決が困難なケースがほとんどです。
また、問題の解決を先送りにしたまま相続が発生すると、子供や孫の代にトラブルを引き継いでしまう恐れもあります。
そのため、問題がこれ以上大きく・複雑化する前に、可能な限り早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
大手町フィナンシャルでは、共有不動産や共有持分に詳しいスタッフがお客様の状況に合わせて最適なトラブル解決方法をご提案させていただきます。
また、共有名義・共有持分担保ローンの契約につきましても多くの実績がございますので、共有不動産全般のお困りごとに関しましては、ぜひ弊社の無料相談をご活用ください。